春夏秋冬叢書 発行物「爺と婆の話 夢見橋」


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[爺と婆の話 夢見橋]

お告げ、御利益、お祀り、祟り。天狗に、河童に、狐に、狼。
民衆、貴族、仏門、落人。お椀に、壺釜、お面に刀。
峠、井戸、滝、石、道、屋敷。

脈々と語り継がれる民話の数々。
多彩な角度で調査、分類、取材。
今回は「其の一」として、100話を紹介。
挿絵で広がる、語り継がれた民話の世界。三遠の民話集。

発売中

挿絵/宮田香里
装幀/味岡伸太郎
B6判(186×128mm)
本文240ページ、ハードカバー
定価 3,000円(税別)
ISBN4-901835-02-5 C0339

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昔、昔、
村はずれの小さな川に小さな橋が架かっていた。
一人で渡ろうとすると、
あるときは 見知らぬ美しい女に出会い。
あるときは 雲に乗った老人に出会い。
ときとして 天狗に脅かされ
狐や狸に馬鹿にされるという。
いつの頃からか
この橋は 夢と現実を行き来する
夢見橋と呼ばれている。

三遠南信の民話の中から「夢」をテーマに選りすぐった
「爺と婆の話」。
これは豊富な挿絵で広がる
風土色あふれる新しい形の詩画集である。



目次

月と日
月と日/飛んで行った仁王様/清滝山の話/神坂/赤羽根の牛/天に消えた蛇/洗濯狐/月と兎
星を落とす
星を落とす/周昌院の童子像/天狗炊き/小僧坂/狛犬の守り/大桑の狐/小便地蔵/
思い返り橋
思い返り橋/狸坂/酒好きの弥次郎/嫁久保/髪洗い女/やすら姫の塚/蜻蛉先達/竹谷の竜若長者/大歳の客
小江の人魂合戦
小江の人魂合戦/天狗の夜遊び/段戸山の天狗/山で花を舞うと天狗が出る/竜が池/蕎麦の茎の赤い訳
金剛寺本堂地蔵菩薩
金剛寺本堂地蔵菩薩/元地に還った観音様/お田戸さんの怪/葦道山夢不動尊/消えた観音様/庚申講の堂籠り
本宮山と神霊の加護/浅間神社の霊験記/鐘の響き合い
狐につままれた話
狐につままれた話/あみだが洞の狐/行者様の古狐/雨宿り/報恩寺の絵馬/ひめ淵/夜の蜘蛛/空を飛んだ黒駒
亀岩/狐の提灯/白狐が出る坂道
じんじろべい爺さん
じんじろべい爺さん/馬方弁天/片目の魚/城ヶ鼻の夫婦岩/小阿寺川の鉱泉/白馬になった池の主/音羽川の河童 
はたごの池/牛の滝/元河岸の天狗/天狗の火/豊島が池の主/大塚の塩の起こり/夜釣りを襲う天狗/猟師と天狗 
生首が笑った話
上町の天神様
上町の天神様/土の中から出た観音様/竜の玉/短蛇のわご/片葉の茶/竜宮の女の着物/すいせん様/五社稲荷の白狐/楠坂の大蛇/天狗の高笑い
鯖地蔵
鯖地蔵/比丘尼沢/保永の三滝/国府の白蛇/法師と狐
鶴の一声橋
鶴の一声橋/仇討観音霊験記/榎の祟り/鵺退治/鳳来寺と寅童子/ねぶき峠と石切地蔵/鳳来寺と甘糟備後守
潮見観音/肩切地蔵/濡れ仏様/田峯城主と鮎







月と日〈新城の昔の話〉
或る時、お月様が旅に出て、と或る茶店で休んだ。暫くすると、お日様も同じ様な旅姿で立ち寄った。お月様は三十文茶代を置いて行ったが、お日様は唯一文しか置いて行かない。余り少ないので茶店の者が追い掛けて聞くと「月に三十文なら、日に一文で良い勘定だ。」と言って、すたすた行ってしまった。

月と日と雷の旅
ある日、月と日と雷が伊勢参りに出掛け、宿に泊まった。
しかし、雷の鼾がゴロゴロと余りに五月蠅くて月と日は寝られない。月と日は相談して、朝早くに宿を立った。
目を覚ました雷が宿の主人に聞くと、「お月様とお日様はとっくにお立ちになりました。」と言う。
それを聞いた雷は、「何と、月日の立つのは早いものだ。」「儂は、夕立にしよう。」と言った。







星を落とす〈北設楽の昔の話〉
子供が屋根の上で竿を持って一所懸命叩いている。
「何を取るだ」と聞くと「天竺の星を払い落とすだ。」と言う。

星を落とす
弟が竿を振って星を落とそうとすると、兄が屋根へ上がった方がいいと忠告するという、愚か者に対して助言する者が、これも又愚かだったという笑い話となっている形式が多い。
 弟・兄という組み合わせが、息子・父親となっている話や、小僧と和尚の話として、「師匠の指南有難し。」と締め括っている話もある。
 又、悪戯者が竿で星を落とすから拾えと言い、流れ星が落ちたのを指差して星が落ちたと、愚か者に拾いに行かせるという形式もある。
 「星を落とす」の話の多くは愚か者の話になっているが、ここでは無邪気な子供の話としての色合いを強くしている。







小江の人魂合戦 〈蒲郡の昔の話〉
小雨の降る或る日の夕暮れ、男が小江に在る藪畳の細い道を通り掛かると塚の辺りから提灯の火程の人魂が転がり出て地上三、四尺の所をふわふわと東の方へ飛んで行く。
 能く見ると今度は東の塚の方からも同じ様な火の玉が飛んで来て、原っぱの中程で上になり下になり入り乱れて戦っている。
 男は恐ろしさに腰を抜かし尻を付いた儘放心してしまった。
 恐らく、此の塚は敵同士で、祀られた後も争っているのだ。







元地に還った観音様〈引佐の昔の話〉
明治の初め仏様や観音様を一つの場所にお祀りする事になり、仏坂や滝清水の仏様も松山に移される事になった。松山では明治十二年、仏坂の観音林を払い下げ立派な観音堂を建てた。
 然し、大正初め、伊平や周辺の多くの人達に次々と悪病や不吉な事が起こり、人々が不安に思っていた在る日の事、観音様が村人の夢枕に立ち「仏坂の元の地に還りたい。」と言う。村人は思案したが結局、元地にお還りに為るのであれば仕方がないと、白布に纏れた観音様は降り頻る豪雨の中を村人に背負われて仏坂に向かった。
 仏坂に差し掛かると今迄降り続いた豪雨は発止と止み、仏坂に辿り着いた時にはすっかり陽が落ちていた。然し、辺りは煌々と月明かりが差し込み、和やかな像を映し出していた。







お田戸さんの怪〈渥美の昔の話〉
大正から昭和に掛けて小中山の田戸神社の傍に陸軍試砲場が在り、神社の境内の一部も射場とする事になった。作業小屋を建て準備を進めていると、或る真夜中、其の作業小屋がめりめりと締め付けられる感じと共に大地震かと思われる程酷く揺れた。
 然し、夜が明けて表へ出てみると別段変わった様子も無い。同僚に恐ろしかった昨夜の話をしても寝惚けたか夢に魘されたのだろうと誰も取り合わない。次の夜も、又しても締め付けられる物音と大地震かと思われる大揺れが起こった。此の話を聞いた地元の人達はお田戸さんの御使いの大蛇の祟りだ、境内を荒してはならないと言い工事は中止された。







五社稲荷の白狐〈小坂井の昔の話〉
昔、五社稲荷の辺りには、沢山の狐が棲んでいた。彼方此方に欅や椎の大木が生い茂り、狐も棲み易かった。夜に為ると、キョーン、キョーンと啼き合う声も聞こえた。
 其の中でも一際大きく美しい白狐は、五社稲荷の奥の院辺りを棲処にしていた。朝早くお参りに行くと白狐に会える、白狐に会うと良い事があると、五社稲荷は朝早くからお参りの人が絶えなかった。
 或る日の夜明け頃、一人の男が五社稲荷へ出掛け、奥の院でお参りを済ませた時、深い霧の中から何かに見詰められている気がして顔を上げると…







法師と狐〈豊橋の昔の話〉
或る時、一人の法師が野依を通って天伯原に出ると狐が沢山遊んでいた。
 法師は悪戯に法螺貝を取り出して、突然吹き鳴らした。狐は吃驚して逃げ散った。其の際、一匹の狐が谷川に落ちて死んでしまった。
 帰りに再び此の原に来ると急に日が落ちて真っ暗に為り一歩も進む事が出来ない。見回すと、一つ火が見える。一夜の宿を頼むと一人の老女が出て来て「家に死人があったので隣家に告げて来る。其の間留守番を頼む。」と言って出ていった。
 そこで家の中に入ると片隅より亡者が起き出して、法師に近寄って来る。法師は次第に後ろへ退き遂には谷川に落ちてしまった。
 途端に真っ昼間に為り、帰る事が出来た。